非常に多彩な症状ですが、全ての症状が一人の患者さんに揃っているわけではありません。一つしか症状がない人もいます。だから、いろいろな病気と間違えられやすくなります。
これらのどれかの症状があるときは甲状腺機能亢進症かもしれないので甲状腺に関係するホルモンを採血して調べることになります。
<甲状腺関連ホルモン>
甲状腺に関係するホルモンは二つあります。
①甲状腺を刺激するホルモン(甲状腺刺激ホルモン)と②甲状腺ホルモンです。
①甲状腺刺激ホルモンは脳から分泌されます。

このホルモンに刺激され、甲状腺から②甲状腺ホルモンが分泌されます。
②甲状腺ホルモンが増えてくると代謝がどんどん進みますからどこかでブレーキが必要です。止めないでそのまま放置しておくと疲れ切ってしまうからです。

便利なことに②甲状腺ホルモンの濃度探知機のようなものがあって①甲状腺刺激ホルモンの分泌が止まります。この二つのホルモンはエアコンのサーモスタットのように温度(濃度)が上がりすぎればストップをかけ不足してくればスイッチをいれるというようにお互いに影響しあっています。
甲状腺機能亢進症はこの②甲状腺ホルモンが増加している病気です。
バセドウ病
甲状腺機能亢進症にはいくつか種類がありますが、その90%はバセドウ病です。
バセドウ病は甲状腺に対して攻撃をかける抗体(抗TSHレセプター抗体)が産生される病気です。
血液の中にこの抗体が増加しているとバセドウ病と診断できます。
バセドウ病の名前の由来であるドイツ人医師カール・フォン・バセドウ先生はこの病気の特徴として
1. 眼球突出
2. 甲状腺腫大
3. 頻脈
を挙げています。現在この3つが揃っている患者さんはそれほど多くはありません。それは病状が進む前に血液検査で見つかるからだと思われます。
バセドウ病の治療方法
バセドウ病の治療方法は3つあります。
①薬物による治療
1. 抗甲状腺薬
● チアマゾール
もっとも多く使われている薬だと思います。それは、後述するプロピルチオウラシルよりも肝障害や血管炎症候群の副作用の頻度が低く、効果がやや早く出るからです。ただし妊娠中に服用することは胎児に奇形を生じる可能性があるため(5%程度)避けた方がよいと思われます。

また、添付文書にも記載されているのですが、無顆粒球症の副作用が500人に1人の割合で起こります。白血球が少なくなって感染症にかかりやすくなります。最初の2ヶ月間は2週間に一度は採血をしてチェックしなければなりません。3ヶ月を越えるとこの副作用はあまりでなくなります。
● プロピルチオウラシル
メルカゾールに比べると使われる頻度は少ないけれど妊娠中の治療で使われます。作用と副作用を考えながら使います。
● 無機ヨウ素
治療の最初に無機ヨウ素を使う場合があります。無機ヨウ素は甲状腺ホルモンが分泌されるのを抑える作用があります。しかし、無機ヨウ素は長く使うと効果がなくなってきます。だから、抗甲状腺薬がなかなか効かない場合の初期治療として補助的に使います。
ちなみにヨウ素は昆布の中には一際たくさん含まれているので(乾燥昆布100g中ヨウ素約192mg)、海草の中でも特に注意したいところです。正常の人でもとりすぎると甲状腺機能が低下します。ヨード摂取量の一日推奨摂取量は0.13mgです。
②放射線治療

甲状腺に集積するヨウ素の性質を利用して放射線を発生するヨウ素をカプセルで飲みます。
甲状腺にたどり着いたその薬は少しずつ甲状腺の濾胞細胞を破壊し、その結果甲状腺機能亢進症が是正されます。
甲状腺機能が正常化して薬が要らなくなった場合、長期的にみると高い確率で甲状腺機能低下症に移行します。今度は甲状腺ホルモンが足りなくなるので、補充する必要が出てきます。
③手術
1. 抗甲状腺薬が副作用で使えない人で放射線の治療はしたくない場合
2. 通院に時間をかけられない若い人、海外に留学などを予定している場合
3. 現在妊娠中、もしくは妊娠予定でチウラジールの副作用が出てしまった場合
4. 薬をきちんと飲んでいるのに効果がない場合
これらの場合、手術を考える必要があります。
放射線治療も手術も再燃をさせないために甲状腺機能をかなり低下させるので治療後に永続的に甲状腺ホルモンを飲み続けなければならなりません。ただし甲状腺ホルモンは副作用もほとんどない非常に安いお薬です。
まとめ
ドキドキしたり汗がなんだか多く出たり、体重がだんだん減ってきたら甲状腺機能亢進症かもしれません。放置しているととても疲れやすくなってきます。快適な日常生活のためにも症状が強い時にはお近くの医療機関にご相談ください。